ジャン・コクトーという人物を紹介しようとするとき、その肩書きをどうするべきなのか。もちろん今回は彼の戯曲を上演するのだから「劇作家」あるいは「作家」としてしまってもいいのかもしれない。でもそれだと彼の全ての仕事のうちの断片、いや断片の断片、いやいや断片の断片の断片の……。キリがない。それほどコクトーの仕事というのはジャンルを横断し広い範囲に広がっている。
いや、「仕事」と限定してしまうのも、あるいは間違いなのかもしれない。間違いとまではいかないまでも、やはり彼自身のほんの一片を記すに過ぎない。だいぶ世俗的な言い方をすれば、彼は公私の境界を自在に越境していたということだ。たとえば、出演者と恋人になる、あるいは恋人を出演させる、というような。そういうゴシップ的な、よくいえば「人間的」な、そういう姿すら晒してしまうコクトーのことは、やはり一言では語れない。
今年の3月7日にはじめて今回のチームメンバーが顔を合わせ、そこから毎月オンラインで集まったり、演出の和田ながらさんや音響の甲田徹さんが来沖するタイミングでミーティングをしたり、美術の丹治りえさんの個展をチームみんなで鑑賞したり、そうやって何度も集まって時間を共有していろんな話をした。
そしてこれから、本格的な稽古がスタートする。どんな作品が立ち上がるのか、それは正直まだわからない。コクトーという人物がジャンルも公私もあちこち行き来して集約や限定を回避してきたように、この『声』という作品も、簡単に限定を許してくれない部分がある。いや、筋自体はとてもシンプルなもので、いくらでも限定できてしまうのだが、ながらさんはじめ我々は、なるべくそうしないようにしてきた。あるいは、そうなってしまった(作品自体の力もあるだろうし、おしゃべりが楽しかったというのもあるだろう)。
いやしかし、出演の新垣七奈さんは大変だろう。どうしても他人事みたくなってしまい申し訳ないが、この戯曲の、明快でありながら捉えどころのない言葉の連なりは、憶えるだけでも骨が折れる作業だろう。そのうえ我々は限定を引き延ばすためのおしゃべりをまだ続けている。七奈さん、がんばって!(やはり他人事になってしまう)。
いずれにせよまだ、広げるだけ広げる、散らかすだけ散らかす、そういった時間が続くのではないかとなんとなく思っている。その拡散の先に輪郭のないおもしろさがあるのだと信じて。
書き手・兼島拓也
(毎週火曜更新)
□□プロフィール□□
兼島拓也[かねしま・たくや]・・・劇作家。1989年、沖縄市出身。 演劇グループ「チョコ泥棒」および「玉どろぼう」主宰。主に沖縄県内で演劇活動を行い、沖縄の若者言葉を用いたコメディやミステリなどのオリジナル作品を創作している。2022年、『ライカムで待っとく』(KAAT神奈川芸術劇場プロデュース)で、第30回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。同作で第26回鶴屋南北戯曲賞および第67回岸田國士戯曲賞の最終候補となる。今回初めてドラマトゥルクとして参加する。
http://chocodorobo.com/
□□公演概要□□