出会いシリーズ1『声』稽古場日記【3回目】

  1. 出会いシリーズ1『声』稽古場日記【3回目】

Columnコラム

稽古は2週目に入り、相変わらずテキストと向き合っている日々である。七奈さんが声にだして読み上げることで、文字として読むよりも時間の経過を実感できる。俳優の身体や感情に波が発生し、それらが観ているこちら側に何度も押し寄せては去っていく。あぁ、演劇を作っているなぁ、とぼんやりとしたことを思って嬉しくなる。
七奈さんが読んだ台詞ひとつずつ、一語ずつが、どのような背景を伴って発生しているのか。みなで対話をしながら、さながら探偵のように吟味し、分析し、解読する(実際にながらさんは「コナン君」にときどき変身する)。ながらさんって一つひとつの言葉から引き出す情報量が多いなぁ、と横で見ていて感心してしまう。この何気ない台詞に何ギガバイト詰まっとるんじゃ? と原作者コクトーの凄さを遡って理解したりしている。
こうして何度も立ち止まって言葉の検討を繰り返していると、稽古場にいる誰かしらの脳内で想起された、その言葉と関連する記憶や思索が語られ、その語りに触発されたまた別の誰かが記憶を語りはじめる。そうやって逸脱と雑談が無作為に生まれ、稽古場に笑いが溢れるようになる。そのような贅沢な時間がいまは流れている。これは稽古がまだ佳境に入っていないからこそ許容されている贅沢さだ。
舞台美術のイメージが結構固まってきた。丹治さんが持ち込んだアイテムを空間に配置すると、世界観というべきか異世界感というべきかが立ち上がり、大スタジオのフラットな質感に歪みが生じる。
衣裳協力のかもめさんも先日他の現場の合間を縫って稽古場に来てくれて、わずかな時間ではあったが空間について、衣裳との関係について、皆で話す時間が取れた。
どうなるんだろう。ワクワクする。あの空間のなかに、どんな格好の七奈さんが存在しているのか。いまでさえ、ただチョコンと座っているだけでなんとなく面白いのだが。
空間ビジュアルが立体化されていく過程自体とてもおもしろくて、グループLINEに丹治さんのスケッチを送ってもらうと、その1時間後くらいには舞台監督の大塚さんが図面に起こしてくれて、それをもとに詳細を詰めたり新たなアイディアのディスカッションをしたり、「うわぁ、チームワークだ〜!」と感心している。さっきから私は感心しかしていない。いっそのことドラマトゥルクではなく「感心」とクレジットした方がいいのではないかと考えてしまうくらいだ。
いよいよ稽古期間も折り返し地点に近づいている。いまみたいに台詞一つひとつを味わいつつ脱線する「言葉の時間」から、徐々に俳優の身体や空間などの「物の時間」の配分が増えていくだろう。いやぁ、とても楽しみだ。というわけでまた来週!
感心の兼島でした。

書き手・兼島拓也

(毎週火曜更新)
□□プロフィール□□
兼島拓也[かねしま・たくや]・・・劇作家。1989年、沖縄市出身。 演劇グループ「チョコ泥棒」および「玉どろぼう」主宰。主に沖縄県内で演劇活動を行い、沖縄の若者言葉を用いたコメディやミステリなどのオリジナル作品を創作している。2022年、『ライカムで待っとく』(KAAT神奈川芸術劇場プロデュース)で、第30回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。同作で第26回鶴屋南北戯曲賞および第67回岸田國士戯曲賞の最終候補となる。今回初めてドラマトゥルクとして参加する。http://chocodorobo.com/


□□公演概要□□
「出会い」シリーズ①
和田ながら×新垣七奈 ジャン・コクトー『声』


日程:10月21日(土)19:00/22日(日)14:00
会場:那覇文化芸術劇場なはーと 大スタジオ
料金:一般:2,500円 U24(24歳以下):1,500円 障がい者割引20%
公演詳細こちら

最終更新日:2023.10.03

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