出会いシリーズ1『声』稽古場日記【4回目】

  1. 出会いシリーズ1『声』稽古場日記【4回目】

Columnコラム


前回の日記ではすこし予告的に、そろそろ「物の時間」の配分が増えていくだろうということを書いたが、いま稽古場では具体的なオブジェクトや空間との関係をどのように形成していくのか、ということをいろいろと探っている。
現代社会はスマホという手のひらサイズの物体にあらゆる機能や情報が集約され、日常で営まれるたくさんの行為や選択はスマホ仕様に最適化されている。我々がそれらを使っているのか使われているのかは判然としないが、社会自体も多くのところでスマホありきのデザインが為されている。
ただ、何らかの事情で電源が入らなくなったとき、スマホの「物」性が前景化してくる。我々の生活の利便性に一切寄与しない、落としたり踏んだりしたら簡単に壊れてしまう脆弱な塊。電源OFFのアンタには用はないのよ、スマホ。
今回の上演にて我々が用いようとしているひとつのアイテムがある。それがなにかは本番までお待ちいただくとして、そのアイテムの「物」さ加減が、とてもおもしろい。時折、過剰に「物」なのだ。
”過剰に「物」”という珍妙な表現をしてしまったが、そうとしか言えないから仕方がない。そんなアイテムと七奈さんとの対峙は、なんだかよくわからない緊張感を発生させる。でもときに、その「物」と心が通じ合っているようにも見える。そんなふうに人と「物」との(ディス)コミュニケーションが稽古場では日々生成されている。
そのコミュニケーションの場に、丹治さんは今日もまた新たなアイテムを投入する。新入りが空間のどこかに仮置きされ、稽古場は沸く。わぁ〜っ! かわいい〜!! なにが可愛いかは言語化できないが、でも確実に可愛げは存在する。具体的なことは何も言えないのが口惜しい。とにかく可愛いから観に来て!!
衣装のかもめさんから具体的なプランの提案があった。過剰に「物」のアイツとは対極にあるようなテクスチャーをもった服。しかもそれが、稽古に入る前からメンバー間で「アレどうしよっか?」と話し合ってきた演出上の課題についても一気に解決してくれる衣装で、このときももちろん沸いた。くぅ〜! かわいい〜!! これはわりと一般的な活用としての可愛い。とにかく観に来て!
この戯曲は、翻訳調のいわゆる「女性言葉」を用いたひとり芝居として書かれているので、普通に読み上げるだけではどこか違和感が残る。ただ、先日稽古中にあるキーワードが出てきて(もちろん中身はまだ言えない。秘密主義だとか秘匿主義だとか言わないで。仕方のないことだもの)、それによってひとつの指標というか、いまの演技はうまくいっているのかいないのか、そのジャッジを言語化することができてきている。要するに、その言葉を話すことの必然性が生まれ、というかむしろもっと話させてみたいな、不自然な発話をモチベートするようなグルーヴが生成されている。
すまない、抽象的で無粋な言葉ばかりが連なってしまっているようだ。この日記も端正な文章を粛々と書いていこうという心意気ではじめたのだが、4回目ともなるとさすがに地金が出てきてしまうわね。
いよいよ本番は来週の土日! ここから稽古は追い込みに入ります。本番まで楽しみにお待ちください!

書き手・兼島拓也

(毎週火曜更新)
□□プロフィール□□
兼島拓也[かねしま・たくや]・・・劇作家。1989年、沖縄市出身。 演劇グループ「チョコ泥棒」および「玉どろぼう」主宰。主に沖縄県内で演劇活動を行い、沖縄の若者言葉を用いたコメディやミステリなどのオリジナル作品を創作している。2022年、『ライカムで待っとく』(KAAT神奈川芸術劇場プロデュース)で、第30回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。同作で第26回鶴屋南北戯曲賞および第67回岸田國士戯曲賞の最終候補となる。今回初めてドラマトゥルクとして参加する。http://chocodorobo.com/


□□公演概要□□
「出会い」シリーズ①
和田ながら×新垣七奈 ジャン・コクトー『声』


日程:10月21日(土)19:00/22日(日)14:00
会場:那覇文化芸術劇場なはーと 大スタジオ
料金:一般:2,500円 U24(24歳以下):1,500円 障がい者割引20%
公演詳細こちら

最終更新日:2023.10.10

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