出会いシリーズ1『声』稽古場日記【5回目】

  1. 出会いシリーズ1『声』稽古場日記【5回目】

Columnコラム

稽古場日記も今回が最終回。早いもので、今週末は本番。
ラストシーンも決まり、全体としての形を成しつつある。ここからは演技や音楽や美術について、細かな部分の精度を上げつつ遊びの部分もより豊穣にしていく、というフェーズ。
精度と遊びの双方を追求することは、時に相反し時にシナジーを発揮する、そのような不確実な状況に身を投じることでもある。単に傍から見ていての印象だが、多分ながらさんはこの不確実性のなかをフワフワ漂っているのが好きなんだろうな、というようなことを思う。もちろん定かではないが。

七奈さんが演じ、ながらさんがフィードバックをする。本番が迫っているため、稽古場ではこのサイクルにかける時間がもちろん増えている。
でも、やはり雑談はたくさん発生していて、というかこの現場はほとんど雑談によって駆動しているので、そりゃもういろんな話が出てくる。
バ美肉おじさん、カマキリと戦う刃牙、大駱駝艦などの(関連してくれたらありがたい)モチーフについて動画を見たりして盛り上がっている。
音響の甲田さんも合流し、七奈さんの演技やながらさんの演出、あとは雑談からいろいろとプランを練っている。舞台美術(丹治さん)や衣装(かもめさん)はある程度仕上がって来ているので、そこに音響と照明(棚原さん)のプランがどのように織り込まれるのか(調和なのか取っ組み合いなのか)。とても楽しみだ。
  

少しだけ予告になるようなことを言うと、今回の上演では、コクトーが書き渡辺守章が訳した戯曲に、ある意味でかなり忠実に作っている。だが、それでいて、これまでのこの作品の分厚い上演史においてもほとんど試みられたことのないであろうことをやっている。
こう書くと、どこかすごく力が入っているような、意気込んだ感じがするのだが、ビックリするくらい逆である。
いや、もちろんちゃんと、この方がいいという思いがあるからこそなのだが、稽古開始前からずっと重ねてきた対話のなかで、脱力し、脱線し、千鳥足よろしくいろんなトピックに衝突を繰り返し、その末に辿り着いた地点である。
第2回で述べた、我々をモチベートするアブダクション(仮説形成)が徐々に肉を付けている。対話のなかだけでやりとりされていた、目に見えない仮想が立体化されてきている。
ぜひこの作品を、この上演を、目に見えなかったものが見えてくるそのプロセスもまるごとひっくるめて、あなたの目で見て欲しい。そして、ぜひ、「声」を聞いて欲しい。
 
最後はすこし熱苦しく訴えかけるような調子になってしまった。柄じゃないが仕方がない。それほど、我々は見られることを切望しています。今週末、なはーと大スタジオでお待ちしております。

書き手・兼島拓也

(毎週火曜更新)
□□プロフィール□□
兼島拓也[かねしま・たくや]・・・劇作家。1989年、沖縄市出身。 演劇グループ「チョコ泥棒」および「玉どろぼう」主宰。主に沖縄県内で演劇活動を行い、沖縄の若者言葉を用いたコメディやミステリなどのオリジナル作品を創作している。2022年、『ライカムで待っとく』(KAAT神奈川芸術劇場プロデュース)で、第30回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。同作で第26回鶴屋南北戯曲賞および第67回岸田國士戯曲賞の最終候補となる。今回初めてドラマトゥルクとして参加する。http://chocodorobo.com/


□□公演概要□□
「出会い」シリーズ①
和田ながら×新垣七奈 ジャン・コクトー『声』


日程:10月21日(土)19:00/22日(日)14:00
会場:那覇文化芸術劇場なはーと 大スタジオ
料金:一般:2,500円 U24(24歳以下):1,500円 障がい者割引20%
公演詳細こちら

最終更新日:2023.10.17

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