公演の見どころ紹介(^^)/【琉球諸島風物詩集ー惣之助の詠んだ沖縄ー】(上)

  1. 公演の見どころ紹介(^^)/【琉球諸島風物詩集ー惣之助の詠んだ沖縄ー】(上)

Columnコラム

 「六甲おろし」「湖畔の宿」「赤城の子守唄」などで知られる川崎市出身の詩人・佐藤惣之助が沖縄を旅したのは大正11年、32歳になる年のことだ。その旅から生まれた詩集『琉球諸嶋風物詩集』で「アラビアンナイトの船乘シンド·バツドのやうに何か冒險的なことがして見たくつてたまらなかつた」と振り返っている。同年に発表した詩集『荒野の娘』の序文では、パガニーニやドラクロアなどを好きな芸術家としてあげる。「どう考へてもわたしは理想派だ。そししてロマンチックで、獣力的で精力のあるもの」を愛するとしたのに続いて自らをドン・キホーテにもなぞらえている。

佐藤惣之助(提供:川崎市市民ミュージアム) 
 
 そんな惣之助の目に沖縄はどう映ったのだろうか。昨年の公演時に展示された、親しい住職に宛てたはがきには到着直後の印象を「殆ど奇習的なのと南國のいやが上にもあかるいのとで驚嘆してゐます」「凡てが回想的で、そしてよく熟した果物のやうに古い」と綴っている。その後、芝居を見たり首里や糸満や読谷を訪ねている。その間「物憂く気だるい島」にあてられていたが、阿嘉島に渡った際に猛然とした創作力の衝動に襲われて琉球詩を書き、先島にも足を伸ばした。

大正11年6月10日付け佐藤惣之助氏から雲井麟静氏宛のハガキ(提供:真照寺)
 
 そうして生まれた『琉球諸嶋風物詩集』に収められた詩の印象を個人的に述べれば、エキゾチシズムに満ちている。海や南風、美しい娘たち、珍しい花や果物、旅愁―などがちりばめられている。また、沖縄滞在中に耳にし、あるいは辻遊郭の尾類たちとの交流の中で覚えたのだろう琉歌の調子や琉球の言葉が多く取り込まれている。公演の紹介文にあるように、詩題の次に、琉歌とそれがどの曲にのせて歌うものであるという節名の記載、そして詩という構成になっているのが特徴で、公演では琉歌(琉球古典音楽)の演奏と朗読を通して惣之助の詩の世界を体感できるようになっている。
 惣之助は『荒野の娘』所収の詩「大きい田舎の女を」で農山村の女性を理想化して描き、序文では「わたしは夢想的現実主義者だ」と自己規定する。夢想的現実主義者のシンド·バツドは旅人の目で美しい沖縄の幻影を綴った。そのまなざしには批判もあるだろうが、惣之助の旅から約100年後の私たちにも彼の沖縄像は「古き良き」という形容で受け入れられる面もある。「おもろ」に大きな感銘を受けた惣之助は「寄伊波普猷氏」の一節に「勝連乙女やあの恩納なべが/いみじき琉歌の曲なぞうたいいづる幻を/蒼い首里の城壁に眺めませう/満壁これ天然と歴史の圖書府です」と記す。今回の公演にも時空を超えた視点と感性に邂逅できることを期待したい。(執筆:真栄里泰球)

公演情報はこちら琉球諸嶋風物詩集ー惣之助の詠んだ沖縄ー

最終更新日:2024.09.05

佐藤惣之助 , 琉球諸島風物詩集 伝統芸能 , 民俗芸能 , 音楽