『Be Here Now』
稽古が始まって三週目に入った。
この稽古場日記も折り返し地点の三回目になる。
最初の方こそ、演劇の稽古場に、詩人という“よそ者”が加わるということで、自分自身に「異物感」を感じ、すこし気まずい思いをしていた筆者も、なんとなく自分の居所をわかってきたように思う。よそ者に程よい居心地を与える場を、私は例外なく「良い場所」だと呼ぶことにしている。
そして、そういう稽古場にいて気づいたことは、この場所の音の通りが非常に良いということ。
少しの声でも隅の方まで心地よく響き、役者のセリフも、演出の指示も、声に余分な力が入っていない感じがする。
声と言えば、今回の『花売の縁オン(ザ)ライン』に出演する役者さんたちは、本当に声がいいし、もっと言えば、6人の役者の声のバランスがいい。それぞれに違う帯域で喋っていて、ミックスダウンしやすそうな声の分布になっているというか。早い話、ストレスなく、スムーズに言葉が耳に入ってくる。
でもって、先週からは、鈴木健介さんのデザインによる舞台セット&小道具込みの稽古が始まっている。
セットがあると、より演劇っぽさが出てきて、役者さんたちのパフォーマンスのギアも一段上がった感じがする。「声の輪郭」が、さらにはっきりしてきて、演じる際の「目線」や「表情」が、だんだんとできあがってゆく。そして、演出家の指示もより具体的になってゆく。
今回の演出家のひとりである兼島さんを見ていると、稽古場に本番のような雰囲気の度合いが高まっていくにつれて、脚本のみの段階では半熟だった部分が徐々に固まっていっている様子が見受けられる。役者の声のトーンを以前より細かに指定したり(「ここは悲しげな感じではなくもっとウツロな感じで」とか)だとか。
とにかく、真剣な表情で演じられる場面を観察して、親切に役者に演出をつけている印象がある。
ここでいう親切とは、単に物腰が柔らかいだけではなくて、兼島さんはカラフルな例えを使い、演じる人間の腑に落ちやすいように真摯に説明する。
ひとつ例に出すとすると、「いじめっ子が相手をいじめているときに、担任の先生が来たときみたいな距離感で」(正確な文言は忘れてしまった。失礼)とかは、さっとイメージできて、思わず笑ってしまったし、同時に感心してしまった。
「説明中の兼島さん」
「今回の舞台セットの仮組」
「まるで現代アートのような謎の装置」
「ヘンテコな動きはもっとヘンテコに……」
書き手・奥間 空
(毎週木曜更新)
□□プロフィール□□
奥間 空[おくま・そら]…詩人。1992年生まれ。沖縄県嘉手納町出身。二十代後半より、詩や小説などの執筆活動を始める。受賞歴に第15回おきなわ文学賞詩部門一席など。近年は文芸だけでなくアート作品の制作にも着手している。
https://twitter.com/okuma_sora
□□公演概要□□
「出会い」シリーズ②
白神ももこ×兼島拓也『花売の縁オン(ザ)ライン』
日程:11月30日(土)14:00開演、19:00開演/12月1日(日)14:00開演
会場:那覇文化芸術劇場なはーと(1階)小劇場
料金:一般4,000円/U24(24歳以下)2,000円/18歳以下:1,000円/障害者・介助者:2,000円
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