出会いシリーズ2『花売の縁オン(ザ)ライン』稽古場日記【5回目】

  1. 出会いシリーズ2『花売の縁オン(ザ)ライン』稽古場日記【5回目】

Columnコラム

『楽しみよ こんにちは』
 
 快活さや期待が胸から離れないこの見知らぬ感情に、楽しみという軽々しくも陳腐な名前をつけるのを、わたしはためらう。その感情はあまりに完全、あまりにエゴイスティックで、恥じたくなるほどだが、楽しみというのは、わたしには敬うべきものに思われるからだ。
 
 とまぁ、サガンの真似事はここまでにしておいて、今週末11月30日、12月1日は、いよいよ『花売の縁オン(ザ)ライン』の本番だ。
 端的に言って、「楽しみ」である(ほんとに陳腐な感想だが)。
 稽古場の雰囲気はめちゃんこ良い。
 できればこの楽しい雰囲気を観に来る人たちにも味わってもらいたい。
演技の余白と言える箇所もあり、そこでは、役者さんたちが毎回、アドリブで違った動きをしていて、それがまたおもしろいので、一度だけじゃなく、二度三度観ても楽しめると思う。
 

「メイクをする役者さんたち」

 稽古場でやっていることと言えば、最初から最後まで通しでやってみたり、各場面を演じてもらったりしたのを、演出家のふたりがフィードバックするということが主になっている。もっとスムーズに見えるようにテンポを詰めたり、動きの中で若干のタメを作ったり、音楽の入るタイミングをセリフ2行分遅らせたり、あるいは、無駄でおもしろい動きを付け足したり。そのさまは、大きなマシーンを小さな部品にまで分解して、そのそれぞれが美しく機能するよう細部まで研磨しているようだ。小説を書く行為で例えると、細かいところの推敲に入ったというところか。いずれにせよ、稽古は佳境である。
 

「踊りを見つめる白神さんとラムネを食べる兼島氏」

「ち、ちかい……」

また、今回「大スタジオ」での稽古を終え、翌々日から「小劇場」での稽古になるタイミングで行われたスタッフミーティングを見学させてもらうことができた。舞台監督、舞台美術や衣装、照明、音響などのスタッフさんが、どのような過程を経て、劇場の本番に臨んでいくのかということを見ることができ、貴重な体験となった。
 

「スタッフミーティング中です」

そして、わたしが書いてきた稽古場日記も、終わりに近づいてきている。
 始めは長いように思われた一ヶ月の稽古期間はあっという間に過ぎ、本番はすぐそこまで迫っている。詩人という門外漢が、演劇の稽古場日記を書くということで、色々と不安になることもあったが、回を重なるごとに、幕が上がるのが待ち遠しくなっていった。幕が上がる──その場面を思い描く。するとなにかが胸にこみあげてきて、わたしはそれをその名のままに、目を閉じて、迎えいれる。楽しみよ、こんにちは。
 

「つちのこー」

書き手・奥間 空

(毎週木曜更新)
□□プロフィール□□
奥間 空[おくま・そら]…詩人。1992年生まれ。沖縄県嘉手納町出身。二十代後半より、詩や小説などの執筆活動を始める。受賞歴に第15回おきなわ文学賞詩部門一席など。近年は文芸だけでなくアート作品の制作にも着手している。
https://twitter.com/okuma_sora
□□公演概要□□

「出会い」シリーズ②
白神ももこ×兼島拓也『花売の縁オン(ザ)ライン』

日程:11月30日(土)14:00開演、19:00開演/12月1日(日)14:00開演
会場:那覇文化芸術劇場なはーと(1階)小劇場
料金:一般4,000円/U24(24歳以下)2,000円/18歳以下:1,000円/障害者・介助者:2,000円
公演詳細はこちら

最終更新日:2024.11.28

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