『詩人の縁オン・ザ・ロード』
去る11/30、12/1に
『花売の縁オン(ザ)ライン』が上演された。笑いあり涙ありの3公演に、それぞれ登壇者の異なるアフタートークがついていて、どのアフタートークも充実していた。観た人は思わぬお土産をもらったような気分になったことだろう。演出家、そしてキャストの多くの人間が「またやりたい〜」というふうな感じで再演を望んでいたのも印象深い。
「アフタートーク①」
左から兼島さん、白神さん、神谷武史さん(組踊・実演家)、土屋さん
「アフタートーク②」
左からAcoMiyagiさん(衣裳)、鈴木健介さん(舞台美術)、白神さん、兼島さん、jujumoのおふたり(音楽)
「アフタートーク③」
左から北川結さん、山内千草さん、大山瑠紗さん、兼島さん、垣花拓俊さん、井上あすかさん、安和学治さん
時間は少し遡り、小屋入りしてからは、不肖奥間、まさかの演出家お二人と同じ楽屋ということになり、楽屋では白神さんと兼島さんの話がおもしろすぎてずっとゲラゲラ笑っていた気がする。劇場への入り口のそばにある楽屋で、ほんとに本番の直前までゲラゲラ笑っていたりしたので、キャストやスタッフの気が散ってしまったかもしれない。この場を借りて謝罪する。すまない。でも楽しかったんだ、許してくれ。
「THE END??? photo by 白神ももこ」
「たのしい楽屋」
そして今回は、番外編ということで、一ヶ月とちょっと稽古場にいて、気づいたことを書いてみようと思う。
まず、稽古場日記を書く詩人が稽古場でできることは、基本的に2つだけです。
それは「視ること」と「聴くこと」です。
一見して、それだけだと、途中から飽きたり退屈したりするんじゃないの? と思われるかもしれないが、さにあらず。
私の知り合いのヴォイストレーナーは、生徒さんの声を集中してちゃんと聴くことで、そのひとの「詰まっている」部分がわかるらしい(何が詰まっているのかは聞きそびれた)。おそらく、そこの「詰まり」を解消すると、声は“通る”ようになるのだろう。そういえば、コナン・ドイルのエディンバラ大学医学部時代の恩師であるジョーゼフ・ベルという人は患者を一目見ただけで、職業や出身地、その患者のどこが悪いのかを言い当てたそうである(この人こそがシャーロック・ホームズのモデルとなった)。
少し暴走してしまった。説明する。
私は、今回稽古を通して役者さんたちの「動き」や「声」を集中して「視る」「聴く」ということをした。すると、役者さんごとに声の出力の仕方が違うし、もっというと声の発生源もそれぞれに違うのがわかる。そして、動きに関しても、鎮まった動き、ノイズのある動き、宛先を天に向けている動き、地に向けている動き、なんかがあるのがわかる。多分このセンでもっと集中して人間の「声」「動き」の理解力を高めていくと、超人的な観察力を身につけることができる(はずである。あんま自信ないけど)。
幸いにして、「声」と「動き」に関しての解像度が上がる前に本番を迎えたので、私は胡散臭い人間になるのを免れた。
自分は今まで集中して人間を「視る」「聴く」ということをしたことがなかったな、というのが、今回の最大の気づきかもしれない。
最終回だからといって調子に乗って変な話を展開してしまったが、最後にわたしがこの稽古場日記を執筆するに至ったきっかけを書いて、この稽古場日記を終えたい。
あれは私が勤めている小さな美術館に今回の「出会い」シリーズの企画者である土屋さんが、第1回目の「出会い」シリーズの演出家である和田ながらさんと共に訪ねてきたときの話。
そのとき、舞台美術のリサーチでお二人は県内の美術館などをまわっていたとか(間違ってたらすみません)。
お二人が来た時、私は常設展のダイニングチェアに座って、ケルアックの『路上』を読んでいた。
本来であれば、私はそういうとき、「こんちは」ぐらいの挨拶だけにして、来館者と深く話すことなくすます非常に怠惰な人間であるが、このときは『路上』の分厚さに辟易していたのか、読んでいるのがたまたま面白くない箇所だったのか、はたまた機嫌が良かったのか、マニュアル的に「今日はどちらからいらしたんですか?」的なことを訊いた気がする。
いろいろと省くが、そこから話が膨らみ、結果、今回この稽古場日記を書くことになった。まことに「縁」とは不思議である。ほかにも演出家のお二人、役者さんたち、jujumoのお二人、それぞれになにかと縁を感じる瞬間があった(長くなるので割愛)。
あのとき、私が『路上』を熟読していて声をかけなければ、今回の「出会い」はなかったし、この場にコラムを書くこともなかっただろう。人生なにがあるのかわからないものである。
最後の最後に、稽古場日記を任せてくれたプロデューサーの土屋さん、演劇に対して右も左も分からない私を色々とサポートしてくださった制作の島袋さん、そしてこの稽古場日記を毎週アップしてくださった制作助手の池根さんに感謝申し上げます。どうもありがとうございました。
photo.仲間勇太
書き手・奥間 空
(毎週木曜更新)
□□プロフィール□□
奥間 空[おくま・そら]…詩人。1992年生まれ。沖縄県嘉手納町出身。二十代後半より、詩や小説などの執筆活動を始める。受賞歴に第15回おきなわ文学賞詩部門一席など。近年は文芸だけでなくアート作品の制作にも着手している。
https://twitter.com/okuma_sora
□□公演概要□□
▼舞台写真・当日パンフレットをアップしていますので、ぜひご覧ください♪
「出会い」シリーズ②
白神ももこ×兼島拓也『花売の縁オン(ザ)ライン』
日程:11月30日(土)14:00開演、19:00開演/12月1日(日)14:00開演
会場:那覇文化芸術劇場なはーと(1階)小劇場
料金:一般4,000円/U24(24歳以下)2,000円/18歳以下:1,000円/障害者・介助者:2,000円
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